アジサイに囲まれた家
JRがまだ国鉄と呼ばれていたころ、仕事で滋賀県にある街へ行くために東西線に乗った。
6月の湖東の風景は、水田が水平線のように琵琶湖近くまでひろがり、風が吹くと水面がさざ波を立てて輝いた。車窓に額を押し付けて、その眺めを楽しんでいる時、ハッと息をのんだ。
アジサイが生垣になっている。
水田の真ん中に、水色やピンクに色づいたアジサイに周囲をぐるりと囲まれた家が建っていた。冬の間は葉を落とし、枯れた枝だけになるはずだ。その間も大事に育て、11か月もの間、6月に咲く花を待つためだけに時間を使うのだろうか。一瞬のうちにそんなことを考えていた。そこにとどまって絵画を鑑賞するように、ずっと眺めていたい。車窓の風景だから、たぶん数秒のことだったに違いないけれど、まるでカメラのシャッターを切るように、アジサイが咲く家の風景が心の中に残った。
30歳を過ぎたころ、家を建てることになった。あのアジサイのある風景を再現したい。玄関の横にアジサイを植えた。地植えにすると数年で大きく育つから、東側はアジサイが咲き誇るはずだ。次の年の花芽は7月頃にはできるから、花が立ち枯れてきたら早めに剪定を済ませよう。我が家の東側は、頭の中で、すでにアジサイの生垣が出来上がっていた。
そんな思いとは裏腹に、私が植えたアジサイは日に日に元気がなくなっていった。同じころに植えたほかの植物は、元気に育っているというのに。土づくりもしたし、水の管理もできている。注意深く様子を見ていたが、回復しなかった。茶色くしおれてしまったアジサイを引き抜くと、根元の土と一緒に、カシューナッツくらいの大きさの白い幼虫がたくさん出てきた。それは、根切り虫とも呼ばれるカナブンの幼虫だった。根を食べて植物を枯れさせてしまうのだ。農薬をまけば、簡単に殺虫できるかもしれないけれど、農薬を使わずに花を育てたいと思う。いい土は微生物や小さな昆虫が作ってくれると、本に書いてあったから。
その後も、母の日のプレゼントにアジサイをもらったり園芸店で見つけたりして、何度か育ててみたけれど、どれも途中で枯らしてしまった。あれほど憧れたアジサイの咲く家は、夢のままだった。
家を建ててから20年。5年前に鉢に植えたアジサイは、今は私の腰くらいの高さに育っている。大きな花が5~6輪ついたアジサイを買ってきて、2周り位大きな鉢に植え替えた。通気性のいいように、直径1㎝程の軽石を多めに敷き、燻炭や腐葉土を混ぜて土を作った。植え替える時に鉢からそっと抜いて、根っこにカナブンの幼虫がいないか確かめることも忘れずに。市販されているアジサイは、4月末ごろから5月にかけて一番いい状態で販売されている。花が枯れていく7月頃に植え替えて、花芽が出る前に短めに剪定すると、来年たくさんのアジサイが咲いてくれるだろう。
アジサイの楽しみ方は、雨に濡れて咲く6月ごろだけだと思っていたけれど、実際に育ててみると切り花やドライフラワーとしても楽しめることが分かった。
切り花で楽しむには、ほのかに色づいた花から20~30センチ位のところで茎を切ってから、さらに茎の先を斜めに切り、はさみの先で茎の中の白い綿を掻き出すと、水揚げがよくなり長く咲いてくれる。萎れてきたら、また切り戻して綿を掻き出すと元気に回復する。萎れたら切って、掻き出す手入れを何度も繰り返せば2~3週間はきれいに咲いてくれるだろう。
ドライフラワーの楽しみ方は、7月~8月頃に立ち枯れてきた花を切り取って、茎を麻ひもで縛り逆さにつるしておくと、きれいなドライフラワーになる。もっと簡単な方法は、大きめのバスケットに束ねて置いておくだけで簡単にドライフラワーになる。どちらの方法でも、そのまま半年以上飾って置ける。瑞々しい状態の時はうまくドライにならないので、立ち枯れるまで待つ。
冬が来るまでは、緑の葉っぱを茂らせるから、グリーンだけでも美しい。水が切れると萎れるので、真夏の毎日の水やりは毎日、それ以外は鉢の土が乾いたらたっぷりあげる。手入れは花芽が出る前の剪定だけで1年中楽しめるはずだ。
心の中に咲いた花が、今年も咲いてくれるだろう。
もうすぐアジサイの季節がやって来る。
アジサイの楽しみ方
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